インタビュー記事

【革新】秦 紀子|人と環境に優しいモノづくりを誰もができるようにする(前編)

SDGsという言葉が普及し始めて「海洋プラスチック問題」や「ビニール袋」、「食品ロス」などのテーマに注目が集まっていますが、最近になって「ファッションロス」という言葉に注目が集まるようになりました。

「ファッションロス」とは、新品やまだ着られる状態にも関わらず廃棄される衣服のことです。日本だけでも年間15億着以上、年間約100万トンものファッションロスが発生しています。

このファッションロスの問題解決に取り組んでいるのが秦 紀子さんです。ファッションロスだけでなく、様々な分野の社会課題の解決に取り組んでおられる秦さんが起こす「革新」についてのインタビューをお届けします。

【秦 紀子(はた のりこ)】curaso代表/布ナプキンコーディネーター協会代表理事。アパレル業界で20年販売やエリアマネージャーとして携わり、結婚、出産を機に雑貨店で起業。自身のPMS(月経前症候群)で出会った布ナプキンを事業化。2016年に「布ナプキンコーディネーター™️協会」を設立。2020年には大分県大分市にアトリエとSHOPを併設した「curaso」をオープン。

カクシン編集部の林です!僕が聞きました!

素材から製造まで「エコフレンドリー」なモノづくり

事業概要を教えてください。

大分県大分市にある「curaso atelier(クラソ アトリエール)」(以下、curaso)という工房兼ショップの運営と、「布ナプキンコーディネーター™️協会」という「布ナプキン」を広めるための協会運営の大きく分けて2つの事業を行っています。

curasoでは具体的にどのようなサービスを提供されていますか?

curasoでは以下の4つのサービスを提供しています。

・事業1:自社ブランド「curaso working cloth」
・事業2:OEM製造
・事業3:ソーイングレッスン(ミシン教室)
・事業4:量り売り

「curaso working cloth」とは、どのようなブランドですか?

「curaso working cloth」という洋服の自社ブランドでは、洋服のリペアーや染め替え、そしてサイズ感を作らないデザインで、できる限り無駄を省いたモノづくりを実践しています。

使っている素材もリネンやコットンなどのエコフレンドリーな素材が中心で、特に製造過程で使われる水が他の布と比べても格段に少ない「リネン」を中心に使っていますね。

OEM製造では、どのような依頼が多いですか?

「OEM製造」では、他社のブランドの洋服の製造を請け負っています。一般的な工場が洋服製造を請け負う際には、最低ロットが100や1,000という単位になってしまい、ファッションロスの増加に繋がっていると言われています。

しかし、curasoでは最低1点から製造を請け負っており、必要最低限の在庫の製造が可能です。

以前、林さんと一緒に「TOS(テレビ大分)」さんの社内で不要になったタペストリーやエプロンをアップサイクルしてエコバッグを作ったのもこの事業の一環でした。(詳しくは以下の動画をご覧ください。)

僕がいつもご相談しているのは、このOEM事業だったんですね!

はい。以前、林さんと一緒に「TOS(テレビ大分)」さんの社内で不要になったタペストリーやエプロンをアップサイクルしてエコバッグを作ったのもこの事業の一環でした。(詳しくは以下の動画をご覧ください。)

ソーイングレッスンも人気があると聞いたことがあります!

「ソーイングレッスン」では、リネン素材を使って洋服を作るレッスンを行っています。毎月テーマを決めて、色々な洋服をミシンで縫う教室です。

自分で洋服を作ると大切に長く使うようになるので、「物を大切にする気持ちを養ってもらう」というメッセージも込めてソーイングレッスンを始めました。

コロナ禍でマスクを縫うためにミシンを買った方が多くて、一時的にミシンが売り切れるほどでした。マスクの供給量が増えてからはミシンを有効活用できていないという声が多かったので、ママたちがミシンを使って自分や家族が着る洋服を作れるようになったり、何か商品を作って販売できるようにするサポートもしています。

量り売りではどんな商品を販売していますか?

curasoに来ていただけるお客様にマッチするように多くの種類は取り扱わず、ハーブティーを中心に量り売りで販売しています。

女性のブルーデイをハッピーにするお手伝い

「布ナプキンコーディネーター™️協会」ではどのようなサービスを提供されていますか?

「布ナプキンコーディネーター™️協会」では、「布ナプキン」の企画、製造、販売、卸しや「布ナプキンコーディネーター™️養成講座」を実施しています。

「布ナプキンコーディネーター™️養成講座」とはどのような講座ですか?

現在、大分県を中心に全国で50名ほどの会員さんがいらっしゃって、主に布ナプキンについて知りたい、布ナプキンを広めたいという女性が受講されています。

私がオンラインで4時間の講義を行い、布ナプキンの基礎知識や月経を快適に過ごせるアドバイスができる「布ナプキンのスペシャリスト」を育成するための認定資格講座です。

なぜ「布ナプキンコーディネーター™️養成講座」を始めようと思いましたか?

私が「布ナプキンコーディネーター™️養成講座」を実施している想いとしては、子育てが忙しくて働きに出られないママたちに「自分で仕事を作る」経験をしてほしいんです。

資格取得後は、受講された方が自分で布ナプキンの講座やワークショップを開催できるようになったり、協会推奨の布ナプキンの販売ができるようになったり、と「布ナプキン」を仕事にできるのです。

さらに、自分でオリジナルの布ナプキンを作りたい方には、作り方や素材の仕入先まで詳しく教えて、布ナプキンを作れる方を増やすサポートも実施しています。

子育て中のママたちが「得意」を生かして「自宅で」働く環境づくり

ピースワーカー制度について教えてください。

ピースワーカー制度と言って、働きたくても働けないママたちに縫製をお願いしています。

最初は洋服も布ナプキンも自分1人で作っていたのですが、まとまった注文が入った時やイベントに出店する時など、大量の在庫を一気に作らないといけない時に私1人では大変になってきました。

その時にふと、私はアパレル業界での経験があるので、自分のブランドを立ち上げたり、お店を経営することができますが、これは誰でもできることではないと思いました。

でも、全てを自分1人でできなくても、ミシンが得意だったり縫製が好きな人はいるはずだと思い、少しずつ製造を手伝ってもらうようになりました。

布ナプキンの製造をお願いしているんですか?

最初は雑貨を中心に製造をお願いしていましたが、雑貨は単価が低い分、作家さんたちにお支払いできる金額が少なかったんです。

そこで、まずは私たちの取り組みに注目してもらう必要があると思い、思い切って「布ナプキン専門店」に店舗の方針を変えました。

当時、布ナプキンを取り扱うお店は少しありましたが、布ナプキン専門店は珍しかったので、メディアに取り上げていただいたり、少しずつ知名度が上がっていきました。

布ナプキン専門店にした作戦がうまくハマったんですね!

すると、前職のつながりで知り合いだったトキハ(大分県にある百貨店)のバイヤーさんから、トキハで開催される催事への出店依頼を頂けたんですよ。

これはいい機会だと思い、エコフレンドリーを意識した洋服のオリジナルブランド「curaso working cloth」を始めて、リネンを中心に使った洋服を作り始めました。

洋服は単価も高い分、ピースワーカーのママたちにお支払いできるお給料も上げられるため、現在は洋服の製造・販売にも力を入れています。

ピースワーカーのママさんたちの工賃を上げるために色々な工夫をされてるんですね。

実は「ソーイングレッスン」を始めたのも同じ理由なんです。

布ナプキンや洋服の製造以外にもママたちの収入源を作りたいと思い、ソーイングレッスンの講師をピースワーカーのママたちにお願いしています。

ピースワーカーの方々はどのような働き方をされていますか?

現在、主に働いてもらっている方はソーイングレッスンの時と週に1日だけ店舗に来てもらっていますね。それ以外の日は、店舗から素材を持ち帰ってもらい、自宅で縫製の作業をして、作った商品分の工賃をお支払いしています。

店舗で縫製の作業をしてもらってもいいのですが、自宅から店舗が遠いので自宅で作業したいと言われて、今の形に落ち着きました。

現在、何名くらいいますか?

全部で10名ほどが登録していますが、お休みしている方もいるので、今稼働してくれているのは3〜4名です。

最初は人数を増やすべきかと思いましたが、まずは今いるメンバーのお給料を増やすことを頑張っています。

メンバーはどのように増えていきましたか?

全て信頼できる知人、友人からの紹介でした。

信頼できる人が信頼している方であれば、私も安心して仕事を任せられるので、一般募集はしていません。

布ナプキンを広めて「世界中の女性たち」に寄り添いたい

色々な活動をされていると思いますが、どの分野の社会課題に特に取り組んでいますか?

「ファッションロス」「フェミニズム」「ごみ」の3点に力を入れています。

ここでは特に「フェミニズム」についてお話しすると。

私がオーガニックコットンにこだわっているのは、単に「肌に優しい」からではありません。海外のコットンの栽培現場のことを調べてみると、女性に関する多くの課題が解決されていないことがわかりました。

コットンの生産にも色々な問題があると聞きますね。

海外で学校に行けない女性が多いのは「生理」の問題もあります。生理用品が十分に足りていなかったり、トイレが整備されていないことが原因で、女性が学べなかったり、働けなかったりします。

この問題にも将来的には着手したいと思っています。

どのような関わり方ができそうですか?

実際に私のお客様が海外で女性のサポートをしている事例があります。

青年海外協力隊として東アフリカの「マラウイ共和国」に2年間行くことが決まったお客様から、マラウイで生理用品が手に入りづらいという相談を受けました。

布ナプキンであれば繰り返し使えるので、大量に購入してもらってもよかったのですが、運ぶのも大変なので現地で布を調達して作ることを提案したんです。

すると1年後に彼女からメールが届いて、マラウイで「サニタリーパットクラス」というレッスンを開催して、女性や子どもたちに布ナプキンの作り方を教えていたんです。

それはすごいですね!

マラウイはエイズを始めとする健康問題が深刻で、彼女もその問題に取り組むために行ったので、布ナプキンが1つの解決策になったと聞いてとても嬉しかったですね。

将来的にはこのような方法で海外の女性が抱える課題にも取り組みたいと考えています。

女性ならではの課題は日本でもまだありますよね?

日本にも多くの問題があると思います。

女性の賃金が低いのも問題ですし、男女で賃金の差があることを問題だと認識していない女性が多いことも問題だと思っています。

女性が働くなら「パート」というイメージがあったり、女性はお給料が低くて当然という考え方も払拭していきたいです。

〈取材・執筆・撮影=林 勇士〉

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林 勇士

【合同会社ビジョナリープロジェクト代表/カクシン編集長/社会派WEBライター】大分県中津市出身。1990年生まれ。2013年に大分大学を卒業後に産業廃棄物処理業界に新卒入社。関西、関東での勤務を経て、2018年に合同会社ビジョナリープロジェクトを創業。1年間の東南アジア、ヨーロッパでの海外調査を実施。2019年10月にUターン移住し、デザインの力で「ごみをお金に変えるアップサイクル」事業を中津市で開始。社会起業家のデザイン支援や企業のSDGs支援を行う。

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